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アスファルトを歩く日々に、この足は満足しているのだろうか。
心のオアシスも渇き、緑が生茂っていない都会のジャングルで慣れ親しんでいるこの身体に五感を取り戻そうと、久しぶりに地図を見た。
山から海までと東京都は意外にも広い。
島には船で行く所だと思い込んでいたが、実は空からも気軽に行けることに気がつく。
いつからなのか、柔軟性に欠けてしまったようだ。
移動時間は1時間ぐらいでと思うと、行き先は限られてしまう。
でも、どうせなら行き慣れている場所より、本土脱出をしてみたい衝動に駆られ、羽田空港から約45分にある東京亜熱帯地区、緑豊かな八丈島へ飛び立った。
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三原山、登山道入口に立つ。案内板を見ながら視線を脇の登山道に移すと、アスファルトの緩やかな上り坂が続いている。
パンフレットによると歩行時間は往復、約2時間20分。どんな出会いがあるのだろうか。
期待に胸を躍らせながら、水分補給は欠かせないと近くの商店で飲み物を購入し、ウォーキングマップを片手に持った。 |
ジャングルのような手付かずの森、奥地にある一つの滝を目指して今は何も考えず赴くままに、八丈島の大自然に身を委ねることにしよう。車に気をつけながら、八幡神社の前を通り過ぎる。
遠くには川の流れる音を心地よく感じながら、軽快な足取りだ。
コンクリート橋の下には唐滝川が流れ、キラキラと光る水面を見ながら川沿いの道へ進むと、茶色の土と石のジャリ道に変わり右にヒサカキ畑、左には南国情緒漂うロベレニー畑だ。
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このあたりで「なんだ、これぐらい」とハイキング慣れしている方には、まだ森へ入る手前だと伝えておこう。
本当の知られざる八丈島の自然はその程度ではないのだ。
何気ない道だけど少しずつ傾斜が変わり次第にゴツゴツした足場に変わてきたら、いよいよだ。こんな道もけして悪くはないし、足の裏をいい感じに刺激をしてくれる。
これまでは歌交じりだったがカーブに差し掛かった後、使われていない筋肉や細胞が目覚めてきた。準備体操としてはいい序盤だ。
さて一息つきたくなった頃、パッと目の前が明るく眩しい青い空が広がって、時には青ヶ島も見えるようだ。
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ヒサカキ畑の向こうに海が見えて、安堵のため息をつく。
あれほど海を見ていたのに森の中にいるものだから、どこにいるのかわからなくなったようだと笑い飛ばした。
笑いも活力とばかりに英気を養ったところで再び歩き出す。
徐々に両足にも力を入れながら登る。
さらに狭くなり一人が歩けるぐらいの道幅になっても森の香りを楽しみ、川のせせらぎに耳を傾けるその余裕は、どこから来るのだろうか。
黙々と歩いているように見えても心は軽く、額からしたたり落ちる汗を感じるたびに、これまでの淀んでいたものが流れ出し、乾ききっていた心のオアシスに新たな湧き水が噴出しているように思えた。 |

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アップが激しくなると足がもたつきやすくなるので、転倒しないよう慎重になる一方で、歩くリズムが崩れだして呼吸も荒く、立ち止まる回数が多くなって調子があがらない。
大丈夫なのだろうかと不安が心を過る中で喉を潤していると、何やら声が聞えてくる。
降りてきたグループの足取りを見ながら道を譲り、挨拶を交わして声を掛け合うと、この先は
「すごい」と言うではないか。
一体、何がすごいのか。この目で確かめようと思いを巡らせつつ、意を決して足を踏み出した。歩幅を小さくとりながら登山道に慣れた頃、左側に見過ごしてしまうぐらい急な下りの小道は、硫黄沼に続いている。
しかし、木々の隙間からは何も見えない。
滑らないようにと設置してあるロープを握り、
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へっぴり腰で恐る恐る降りて何とか無事に着地。もう、泥んこになろうが構わないと開き直りでバサバサと草木を掻き分けて行くと、隠れていたかのように鮮やかなエメラルドグリーンが目に飛び込んできた。
硫黄成分が溶けて独特の色合いをした沼だというが、自然だけがなしえる色彩に心を奪われて立ち尽くす。
沼のほとりは水がギリギリに迫っていて、注意をしながら覗いてみるとガラスのように透明で澄んでいた。
硫黄沼が見えてよかったと、ここで引き返しては持った得ない。
遠くに聞える滝音の方へ、勢いよく伸びている草木をカサカサと手で払いながら探索すると、沼の水面の向こうに小さな硫黄滝が岩肌を滑 |

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らかに水が流れ落ちていた。ここは趣のある別名、三原山庭園としておこう。
穴場を探し出せたようなワクワクした喜びをかみしめて険しい道を戻り、さらに上を目指すと硫黄沼から約15分くらい歩いた森の中に突如、コンクリートの水道タンクが現れる。
左へカーブを描くように道なりに進むと、古い水道管のようなものが地面に置いてある。
顔を正面に向けると、目の前にはこれまでとは違う森の顔。今までの険しい箇所は身体を解すためだったのか、三原山とのサバイバルゲームがはじまった。
気合を入れて、足元にあるスタートラインの水道管を跨ぎ、まずはお手並み拝見と、先を阻
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む川がある。
ポンポンとリズムよく、石の上を飛び跳ねる感じではない。両岸の樹木は互いの手を繋いでいるかのように、ロープが張られている。

流れを遮る石の中でも靴が濡れないような部分に足をかけ、ロープを伝いながら向こう岸に |
渡った。
緊張していたのか呼吸を整えながら先を見ると、茶色い山肌の側面に続くかなりの傾斜道は結構、手強い。
どうしたものか、と思いながらも腰を上げ、急な斜面の足場を一つ一つ確認しながら、鉄パイプの手すりを掴む。
山肌の危険な箇所にも心強いロープが張られていることから、これなら行けるぞと、どんどんよじ登り、気がつくと両手を腰にあてて砂防提の上に立っていた。
よくぞここまで。
高台から見渡す照葉樹の森の中で、童心に帰ったような無邪気さを呼び起こせたのは、差し |
込む光と風と共に、自然に遊んでもらえたからこそ。
大人になるにつれ平静に自然な振る舞いで調和をとろうとするが、心中では装い隠すことが多い現実。
だが、忘れかけていたものをこの手に入れた。
そんなミクロな話、こだわるのはもうよそう。
物思いにふけていたら、ピシャと顔に何か冷たいものを感じてハッとする。
唐滝がすぐそこにあるのだ。
足早に砂防提を渡りきり、清らかな川がお目見えしたが、もうこれぐらいのことでは驚かない。
手助けのロープでバランスを取りながら、頑張り続けていた足もしなやかになれた一瞬、立ち
止まった。心が高鳴り、愛しい人にやっと巡り会えたような、嬉しさと感動が満ち溢れる。 |

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ダイナミックな勢いを感じる滝とは異なり、森の奥で大切に秘められた神秘的で美しい滝。
空高い水瓶からこの島に命の息吹を送り込んでいるかのように、優美に舞い落ちる飛沫と陽射しが奏でる小さな虹はとても幻想的だ。
大きく深呼吸をして、この情景を身体にしみ込ませる。
元気をありがとう。
旅愁の余韻に浸りながら、もう少しここに佇んでいようと思う。
三原山の懐に抱かれていることを感じながら。
文:Kuri 撮影:Satoh |
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